「ある職工の手記」(宮地嘉六)

若い「私」のエネルギーの迸り

「ある職工の手記」(宮地嘉六)
(「日本文学100年の名作第1巻」)
 新潮文庫

「日本文学100年の名作第1巻」新潮文庫

継母との軋轢に苦しんだ「私」は、
家を出て佐世保の造船所の
少年工として働き始める。
知り合いの善作の家に
住み込むものの、
息子から虐められ、
職場の人間関係にも悩む。
やがて「私」は納屋住みの
職能集団に入り、
職工を目指す…。

私が以前勤務していた学校は、
工業系学科を持つ
中高一貫教育校でした。
10月頃になると、
中学校で受け持った生徒が
次々に就職内定の報告に来ます。
嬉しい限りでした。
十八歳で工業系技術者として
世の中に出るのは、
苦労も多いことでしょう。
子どもたちの将来に
幸多きことを祈るばかりでした。

さて、今日取り上げるのは
労働者の文学です。
といっても、プロレタリア文学ではなく、
その前身ともいえる無産派文学の作家・
宮地嘉六の作品です。
この作家も、
新潮文庫「日本文学100年の名作」で
知ることができました。

created by Rinker
¥54 (2024/05/04 14:39:20時点 Amazon調べ-詳細)
今日のオススメ!

どんな作家か?
以下はウィキペディアからの引用です。
「佐賀市生まれ。
貧困のため小学校を中退して
仕立て屋の丁稚となるが、
12歳で佐世保海軍工廠の見習工となる。
その後16歳から31歳までは
兵役を挟み旋盤工から旋盤師として
約10年間を呉海軍工廠で、
その他神戸、長崎、東京の工場を
転々とした。
労働争議が続いた呉海軍工廠時代には
ストライキの首謀者として
広島監獄に拘禁もされた」。

本作はまさにそうした著者の
体験から生まれた作品です。
本作品の魅力は、なんといっても
若い「私」のエネルギーの迸りだと
思うのです。

一つは、
職工に誇りを持つ「私」の志です。
職能集団は、木工・鉄工・機械工の
3つに分かれているのですが、
「私」は頑なに
鉄工場で働くことを希望します。
周囲から鉄工場の危険について
諭されても、意志を曲げません。
盲目的といってしまえば
それまでなのですが、
若さゆえの推進力の大きさを感じます。

もう一つは、思想的にも目覚め、
親や故郷から完全に離れようとする
「私」の自立心です。
「帰ってなるものか…。
 私はもう国へ帰って
 父の家業を手伝うと云う気には
 なれそうもなかった。
 私は既に或る一群の
 思想ある放浪職工等に親しんで
 将来の行動を共にすべく
 堅く誓っていた」

この注目すべき作家の作品は、
残念なことに文庫本では
本書以外ありません。
青空文庫でも本作を含む3作品のみ
公開されているにとどまります。
作品の復刊を望みます。

〔本書収録作品一覧〕
1915|父親 荒畑寒村
1916|寒山拾得 森鷗外
1918|指紋 佐藤春夫
1918|小さな王国 谷崎潤一郎
1919|ある職工の手記 宮地嘉六
1921|妙な話 芥川龍之介
1921| 内田百閒
1921|象やの粂さん 長谷川如是閑
1922|夢見る部屋 宇野浩二
1923|黄漠奇聞 稲垣足穂
1923|二銭銅貨 江戸川乱歩

〔宮地嘉六の作品〕

(2020.4.9)

Max GösslerによるPixabayからの画像

【青空文庫】
「ある職工の手記」(宮地嘉六)

【日本文学100年の名作】

created by Rinker
¥226 (2024/05/04 14:55:13時点 Amazon調べ-詳細)
created by Rinker
¥347 (2024/05/04 19:19:42時点 Amazon調べ-詳細)
created by Rinker
¥314 (2024/05/05 08:28:33時点 Amazon調べ-詳細)

【今日のさらにお薦め3作品】

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA